硬筆入門

はじめに

手書きの文字は、近年パソコンやワープロに押されて使用頻度が減少しつつあり、読めても書けない文字が増えてきていますが、メモを取るときは手書きのほうが便利ですし、礼状や挨拶文は手書きのほうが気持ちが伝わります。冠婚葬祭の記帳から、宅配便の荷札、ラベル類、手帳や旅のつれづれの落書き帖などなど・・・・、いくら交通機関が発達しても足を使っての移動がなくならないように、手書きの文字がなくなることはありません。そこで手書きの文字についてのよしなしごとを、思いつくままにそこはかとなく書き綴ってみました。

世界の書事情

  西欧ではカリグラフィーと呼ばれる筆写技術があります。昔は鵞鳥の羽の軸の先端を斜めに切ってペンとしていました(図1)。磨り減ってくるとナイフで先端を尖らせて何度でも使用します。勿論現在は金属製のペン先を使いますが、ペン先の向きや角度によって線の太さが変わり、熟練すると装飾文字が短時間で綺麗に書けます。(図2) 大憲章の一部。13世紀イギリス) なかなかに見事な技だとは思うのですが、毛筆のような表情豊かな線は望むべくもありません。英語で書道を紹介するとき、つい面倒なのでカリグラフィーと訳してしまいますが、別種のものです。

 イスラム世界にも、経典の章句や詩の一節などを綺麗な装飾文字にして眺める風習があります。イスラム教では神像や神の似姿を飾ることは禁じられていますので、神聖な文言をタイルに焼き付けてモスクの壁面を飾ったり(図3)、好みの詩句を紙や板に書いたものを家庭で鑑賞したりしてきました。昔は葦の軸の先端を尖らせたものをペンとして使っていたそうで、先端が磨り減ってくるとナイフで尖らせるところは鵞ペンと似ています。大きな都市には我が国の書道塾のように書き方を指導してくれるところや、専ら作品を書いて売っている専門家もいるそうです。(図4)はイランのテヘランに行った友人に買ってきてもらった作品で、絵の具と大小の竹箆を器用に使ってアラビア文字を美しく表現しています。(図5)はそんな竹箆の一つで、さしずめ小筆といったところでしょうか。

この作品に限らず、モスクの壁面装飾にしろ家庭用の鑑賞作品にしろ、全般的に極彩色・絢爛豪華なものが多く、書道というより工芸品といった感じがします。

 というようなわけで、毛筆を使って文字を芸術的に表現する書道は、漢字文化圏と韓国のハングル(図六)、日本のかな文字に限られるようです。尤も漢字の本家の中国では最近は簡体字と呼ばれる略字が普及し、昔の漢字が読めない世代が増えてきていていますが、簡体字の書はまだ一般的ではないようです。

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(図1) 鵞ペン

(図2)大憲章の一節

(図5) 竹箆

(図3)モスク壁面の文字

(図4)イスラームの色紙

(図6) ハングルの書